東京高等裁判所 昭和24年(ラ)46号 決定
一、当事者
抗告人 ○藤○郎
二、主 文
本件抗告はこれを棄却する。
三、理 由
抗告人抗告事由は、抗告人としては、本件を和解によつて解決することがおたがいの幸福であると信じ、和解えの道を開くため、この抗告をする。
一、妻子ある者が、他の女を家庭内に引き入れて、これと同棲生活を営むことが著しい非行にあたるという考え方は、フランス刑法が姦通罪を罰するにあたり、こうした場合、夫に犯罪の成立を認めている思想に影響されていると思う。けれども、姦通罪が廃止された今日、男女間の問題は、完全な自治にまかせられたのだから、解決の方向は自ら異つてくるのではなかろうか。
二、民法第七百七十条第一条第一号によれば、配偶者に不貞な行為があつたときは、離婚の訴を起すことができることになつているから、○藤○郎の不貞を責めることは、妻○○の自由意思にかゝつている。だから本件にあつては、妻○○を証人に呼んで、妻○○の氣持を確め、妻○○が○郎と○田○のとの関係を許しているとすれば、○郎の行為は放任されなければならない。それを婚姻関係からいえば第三者である○藤○吉が、廃除の理由にすることは、男女間の自治の精神に反する。
この意味で、審問の再開をもとめたところ、そのまゝ審判したことは、妻○○の立場を無視したものとして、審理を尽していない。
三、民法第七百七十条第二項によれば、配偶者に不貞行為があつたときでも、一切の事情を考慮して、婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができることになつているが、不貞行為も客観事情によつては、放任される場合があることがわかる。
○郎と○田○のとの関係は、
(イ) 昭和二十二年一月末か二月上旬頃○藤○吉宅に親戚が集まつたとき、親戚の話合の結果、○のを置くことがきまつたこと。
(ロ) ○藤○吉も○郎と○のとの関係を許していること(○村○雄の証言をもとめるため再開の申立をした)
(ハ) ○田○のは○郎が生計を立ててゆく上に必要な女であること等の客観事情によつて、それは非行であつても著しい非行とまでいわれなくても済みそうにも思われる。その意味で、○郎と○田○のとの関係をめぐる客観事情について、本件審利は審理を尽していない。というのである。
そこで本件抗告の当否を考えて見るに甲第一号証(戸籍謄本)によると抗告人は○藤○吉の遺留分を有する推定相続人であることが明らかで、同号証並びに原審における証人○藤○太郎、○原○助、○藤○藏、○藤○の証言に依ると、抗告人は、昭和十一年十二月二十三日現在の妻○○と婚姻し、その後その間に二男二女の出生を見たのであるが、同二十一年一月二十六日から家業のフルイ絹織物製造に関して、○田○のを織物女工として雇入れるや、間もなく同女と情交関係を生じ、両親、親族等の諫止をも聞入れず、その関係を継続し、その間に庶子を儲け、遂には同邸内に在る織物工場に○のと同棲して、父母妻子とも別居し、妻子を捨てゝ顧みないに至つた、という事実が認定できる。そうしてなお、前示の各証拠に依れば抗告人は、先に青年期に入つた頃より素行が修らず、○○との婚姻前には、数名の女と順次情交関係を生じ、その間三名の子を儲けたる事実があり(内一名は庶子として入籍した)為に屡々紛議を生じたことを認められるから、○田○のとの間の関係も已むを得ない特別の事情等があつた訳でなく、畢竟、抗告人の不品行なその素質の結果であると認めるのを相当とする。そうすれば妻○○が特にこれを問題としないとしても、抗告人の○田○のとの関係における前掲事実は、民法第八百九十二条に規定する所の著しい非行であるものと謂わなければならぬ。原審がこれを以て抗告人が○藤○吉の推定相続人であることを廃除するに十分の理由があるとしたのは正当であつて、抗告人側の各証拠は右認定を左右するに足りない。
よつて、本件抗告はその理由がないから、家事審判法第七条、非訟事件手続法第二十五条、民事訴訟法第四百十四条、第三百八十四条を適用し、主文のように決定する。